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【活動報告】歌舞伎ビジネスをEBMで読む─團菊祭五月大歌舞伎  鑑賞 × 松竹株式会社社セミナー 学習会レポート

EBMI事務局

EBMIでは、マーケティング理論を現場で問い直す機会として、「社会科見学」型の学習会を不定期に開催しています。今回テーマに選んだのは、400年続くエンタメ産業──歌舞伎です。

「これほどEBMの観点で読み解きがいのある産業は、他にない」。
そんな問題意識から、5月22日(金)、歌舞伎座での『團菊祭五月大歌舞伎』鑑賞と、松竹株式会社本社でのセミナー&ディスカッションという二部構成で実施しました。

参加できなかった会員の皆様にも、当日の学びをお届けします。



開催概要


  • 日時:2026年5月22日(金)
  • 第1部 会場:歌舞伎座(東京・東銀座)/演目:團菊祭五月大歌舞伎 昼の部(三代目尾上辰之助襲名披露)
  • 第2部 会場:松竹株式会社 本社
  • 登壇:
    • 松竹株式会社 演劇統括部 戦略室 室長 片岡 佑輔 氏(進行)
    • 松竹株式会社 歌舞伎・演劇製作部 編成室 室長 小野里 大輔 氏
  • 参加:EBMI会員、松竹株式会社のみなさま


「観る・聞く・考える」の三層を一日に凝縮した、密度の濃いプログラムでした。



第1部 歌舞伎座という”現場”を観察する


歌舞伎座に到着した時点から、すでに観察は始まっていました。東銀座駅から直結する地下「木挽町広場」は、開場前から土産物や弁当を求める観客で活気に満ち、興行という産業がいかに”観劇前”の時間まで含めた体験設計のうえに成り立っているかを実感させます。

今回鑑賞したのは『團菊祭五月大歌舞伎』。三代目尾上辰之助襲名を伴う特別な公演で、一門の伝統継承を象徴する祝祭感が劇場全体に行き渡っていました。演目の合間には、襲名公演のために用意された特別な「祝幕」──神田松鯉寄贈、河嶋淳司の原画による「青龍」──が登場し、客席から大きな拍手が起こります。これは単なる華やかな演出ではなく、襲名という”イベント”を中心に観客の感情とロイヤリティを最大化する、洗練されたブランド継承の装置でもあります。

幕間には、客席の構成にも目を向けました。年配のリピーター、若い世代の単独客、訪日観光客、家族連れ──多様な層が共存しているのは、歌舞伎というカテゴリが持つ”幅”の表れです。

ある参加者からは、「この客層は、百貨店のそれとよく似ている」という指摘もありました。コア顧客の高齢化、単一拠点を中核に据えた体験設計、世代を超えたリピート構造、若年層獲得という共通課題──業種の見た目は異なれど、顧客との向き合い方において驚くほど近い構造を持つ二つの産業を、思わず重ねて眺めることになりました。

イヤホンガイド、幕の内弁当、館内動線、客席からの「大向う」、床板を踏む音──観劇体験を立体化するこれらの要素一つひとつが、CX(顧客体験)の構成要素として観察対象になります。

歌舞伎座そのものが、巨大な”カテゴリエントリーポイント設計”の現場。何が観客の足を運ばせ、何が再訪をつくっているのか──論文や教科書では得られない解像度が、ここにはありました。



第2部 松竹社セミナー:歌舞伎興行ビジネスの現在地



歌舞伎鑑賞体験後、参加者は松竹株式会社本社へ移動。演劇統括部 戦略室室長 片岡佑輔氏の進行のもと、歌舞伎・演劇製作部 編成室 室長 小野里大輔氏、松竹社員の皆様、EBMI参加会員による感想戦とビジネスセミナーが開催されました。




感想戦:観劇直後の生の気づき

セミナー冒頭、参加者から共有された観察は多岐にわたります。

  • 五感で楽しむ立体的なライブ感:床板を踏む音、客席からの「大向う」、指先まで神経が行き届いた様式美──録画では決して伝わらない、1回限りのライブパフォーマンスの完成度に感動の声が上がりました。歴史的な襲名というクロスオーバーな瞬間に立ち会えたことへの特別感も語られました。

  • 付帯サービスの威力:「イヤホンガイドのリアルタイム解説のおかげで、予習なしでも十分に楽しめた」と、初鑑賞参加者からその強力なサポート機能への評価が相次ぎました。

  • リピート鑑賞の奥行き:「同じ演目でも役者が変われば表現が変わり、何度観ても新しい発見がある」──継続鑑賞者から、古典芸能ならではの楽しみ方が提示されました。

ライト層から長年のファンまで、視点の異なる気づきが交差したこと自体が、歌舞伎というカテゴリの幅を示しています。
続いて小野里氏より、團菊祭の歴史や、今回の辰之助襲名にファンが感じる特別な意味や、今月の演目選定などのレクチャーがあり、伝統芸能たる歌舞伎ならではの魅力や楽しみ方への理解を深めました。




ビジネスセミナー:マーケティング視点で紐解いた論点

片岡氏より、伝統芸能の興行ビジネスについての資料をもとにレクチャー。EBMの主要概念がそのまま現場の意思決定に直結する論点として、活発な議論が交わされました。本誌では、その中から公開可能な範囲で三つの論点をご紹介します。


① CEP(カテゴリエントリーポイント)と客層の構造
 消費者が「歌舞伎を観に行こう」と思うきっかけとは何か──潜在的な歌舞伎関心層を顕在化させるためのアプローチや、ライトユーザー・未顧客にとってTV等のメディア露出がいかに強力なエントリーポイントとして機能するか、また現代の人気IPを新作歌舞伎にすることで、通常と異なるCEPを広い層にリーチしているなど、構造的に議論されました。

② 歌舞伎の最大の強み:「生涯現役のLTV」
 歌舞伎俳優は5歳頃に初舞台を踏み、80代まで現役で舞台に立ち続けます。ファンも「一生推し続けられる」極めて長期的な関係を築ける。さらに、役者の家系を「祖父・父・子」と時代を超えて、名跡も継承されていく一門を応援できる構造は、他のエンターテインメントにはない稀有な優位性──まさに教科書的なロングLTVのお手本と言える設計です。

③ F2転換:ライトユーザーの体験設計
 初めて足を運ぶライトユーザーの視点から、さらなるCX向上のための課題についても議論されました。古典ならではの「言葉のハードル」をいかに下げるか、複雑な「館内動線」をいかにスムーズにしてサービス機会を最適化するか──初回顧客をドロップアウトさせずに次の観劇(F2)へ誘導するという、多くの会員企業のマーケティング実務にも直結する論点です。


なお、議論の詳細には機密事項を含むため、本記事での記載は上記の輪郭にとどめます。ただ一点だけ申し添えるなら、「自社の業界では当たり前と思っていたフレームが、まったく違う産業に当てた瞬間に新しい姿を見せる」 体験は、参加者全員にとって大きな収穫となりました。



総括



今回の学習会は、「敷居が高い芸術鑑賞」と思われがちな伝統芸能が、実は 「究極の長期LTVを誇る、極めて現代的なエンターテインメント・ビジネス」 であるという、解像度の高い視点を得る機会となりました。

“伝統芸能”という一見EBMから遠いように見える題材が、実は最も濃密なケーススタディの宝庫である──そう再確認するレポートになったのではないかと思います。

また、歌舞伎をこれまで観たことがなかった参加者からも、「想像以上に現代的だった」「次は家族と訪れたい」という声が聞かれ、結果として、日本の伝統文化との距離が一歩縮まる時間にもなったようです。

素晴らしい鑑賞機会をご用意いただき、また非常に刺激的なビジネス戦略をご講義くださいました松竹株式会社の片岡様、小野里様、そして長丁場のイベントにご参加いただいた会員の皆様に、心より感謝申し上げます。



次回ご案内



EBMIでは、今後もこうした「現場で学ぶ」機会を定期的に企画してまいります。次回の社会科見学の詳細は、会員サイト・ニュースレターにてご案内いたしますので、ぜひ次の回でお会いしましょう。


主催:一般社団法人 日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)
ご協力:松竹株式会社

執筆者

EBMI事務局

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「根拠のあるマーケティング」をけん引、啓蒙することを目的に設立されたマーケティングエビデンス研究の専門機関。企業のCMOやマーケティング担当役員、アカデミアが集結し、さまざまな先行研究・再現研究を通して、日本市場ならではの成長法則を発見し、知見や実践スキルを実務家に還元する。