【第0回】日本のシャンプー市場における経験的一般化(NBD・ダブルジョパディ・購買重複の法則)の検証
第0回として試験的に実施されたエビデンスレビューでは、日本のシャンプー市場でも「NBD・ダブルジョパディ・購買重複の法則」が成り立つのかについて、実証分科会の芹澤 連氏(研究主幹/フェロー)より発表されました。
詳細は以下よりご覧ください。
発表・投票結果の概要
<分科会名>
実証分科会
<分科会メンバー>
委員長:木田浩理(代表理事)
研究パートナー:芹澤連(研究主幹)、カタリナマーケティングジャパン株式会社
<評議員による投票結果>
CMOによる承認 100%(7/7 票)
<承認理由>
- 適応範囲が明確であり、提示された論旨とデータにも違和感がなく、汎用性と信頼性が高い。
- 成長ステージに応じて戦略をスイッチする必要性が示唆されており、マーケティング施策の立案に有効である。
- 浸透率に注力する具体的な閾値を提示しており、実践面でも活用しやすい。
- カテゴリー定義の難しさはあるが、シャンプーにおいては問題が小さいと認識され、実用性を担保している。
- 分析手法に不自然な点がなく、また「サブカテゴリー設定」などの切り分けも納得感が高い。
総じて、具体アクションへつながる内容であり、広くマーケティング現場に貢献しうるとして承認に至った。
要約
<研究の目的>
アレンバーグ=バス研究所を中心に語られている「負の二項分布(NBD)」「ダブルジョパディ(DJ)」「購買重複の法則(DoP)」などの経験的一般化が、日本のシャンプーカテゴリーでも当てはまるのかをPOSデータを用いて検証する。
<方法>
カタリナ消費者総研の研究データを参照 。対象期間や分析単位別に、NBD・DJ・DoPモデルの適合度を検証した。
<結果>
- 負の二項分布(NBD)
- 大きなブランド・小さなブランド、短期・長期を問わず、購買頻度分布はNBDに従う。
- 市場におけるライトユーザーの割合が大きい一方で、長期になると大きなブランドでのリピート率が相対的に高まる。
- 大きなブランド・小さなブランド、短期・長期を問わず、購買頻度分布はNBDに従う。
- ダブルジョパディ(DJ)
- 日本のシャンプー市場では、浸透率が高いブランドはロイヤルティもやや高くなるダブルジョパディの法則が再現された。
- 浸透率2.5%前後を超えるとDJラインに乗りやすくなり、さらに5~12%の「壁」が存在する可能性が示唆された。
- 日本のシャンプー市場では、浸透率が高いブランドはロイヤルティもやや高くなるダブルジョパディの法則が再現された。
- 購買重複の法則(DoP)
- いかなるブランドも、そのブランドが共有する顧客の割合は「競合ブランドの浸透率」に比例して変化するというパターンが高い精度で当てはまる。
- ただし一部「サブカテゴリー」と呼べるような高価格帯シャンプー群では、独自の重複・競争パターンも確認された。
- いかなるブランドも、そのブランドが共有する顧客の割合は「競合ブランドの浸透率」に比例して変化するというパターンが高い精度で当てはまる。
<結論>
日本のシャンプー市場は、世界的に報告されている経験的一般化(NBD・DJ・DoP)の諸法則に典型的に従う。ブランドの成長フェーズや価格帯の違いによっては例外的パターンも見られるが、全体としては浸透率の差が競争構造やロイヤルティを左右している。今後は他のカテゴリーでも同様の傾向が見られるのかを検証することで、より一般化されたマーケティング戦略の知見を得られると考えられる。
イントロダクション
<研究の背景と重要性>
EBMI実証分科会では、アレンバーグ=バス研究所などを中心に提示されるマーケティングの一般法則が、日本市場でもそのまま通用するのかを実際のPOSデータで検証する取り組みを進めている。シャンプーカテゴリーは多くの消費者にとって日常的に購入されるアイテムであり、競合ブランドも多いため、研究対象として適している。
<先行研究のレビュー>
既に海外では、アレンバーグ=バス研究所などを中心に、NBDやDJ、DoPと呼ばれる法則が多くのカテゴリーや国、データセットで再現されている。しかし、日本の消費財市場における大規模データでの検証は限定的であった。
<研究目的と仮説の提示>
本研究では、「日本のシャンプー市場においてもNBD・DJ・DoPの法則が当てはまる」という仮説を立て、カタリナ消費者総研の研究データを用いて定量的に検証する。
【仮説】
- シャンプー市場の購買頻度分布は、ノンユーザー・ライトユーザーの数が極端に多く、ヘビーユーザーになるほど少なくなっていく(負の二項分布)
- 浸透率とロイヤルティは正の相関を示す(ダブルジョパディの法則)
- 購買重複率は競合ブランドの浸透率に比例する(購買重複の法則)
研究方法
<実験・調査の手順>
- カタリナ消費者総研の研究データ(全国の大手SM・GMS・ドラッグストア約1万店舗、1億ID、年間12兆円のトランザクションデータ)を参照。
- シャンプーカテゴリーを対象に、一定期間内に1回以上購入したIDを“購入者”と定義し、ブランド別の購入者数(浸透率)、購入頻度、重複購入率などを算出した。
<データ収集・分析方法>
- NBDの検証
購買頻度(半年、2年など期間を変えて集計)に基づき、頻度分布と理論分布(NBD)との適合度を確認。 - DJの検証
各ブランドの相対浸透率(当該ブランドの購入者数 ÷ カテゴリー購入者全体)と、SCR(Share of Category Requirements)をプロットし、ダブルジョパディラインが形成されるかを検証。 - DoPの検証
各ブランドの重複購入率行列を作成し、単純モデル(bx|y= Dbx(競合の浸透率)) との誤差と相関を計測。
<再現性確保のための詳細>
- 対象期間は半年スパン、2年スパンなど複数単位で比較した。
- データの詳細(N数や店舗別のシェアなど)は契約上公表できないが、再分析は同様データセットで再現可能。
結果
<負の二項分布(NBD)の検証>
- 大きなブランドでも小さなブランドでも、短期・長期いずれの期間でも、ライトユーザーが最も多く、購入頻度の高いヘビーユーザーは少数であるというNBD分布が確認された。(図1)
- 大きなブランドほど、期間を長くとった際にリピートする層が相対的に増える傾向がみられた。(図2)
【図1】

【図2】

<ダブルジョパディ(DJ)の検証>
- 相対浸透率を横軸、ロイヤルティ指標(SCRや購入頻度)を縦軸にプロットしたところ、多くのシャンプーブランドがダブルジョパディライン上に分布。(図3)
- 浸透率が2.5%程度を超えるとDJラインが明確になる一方、5~12%前後に「壁」がある可能性も示唆された。(図4)
【図3】

【図4】

<購買重複の法則(DoP)の検証>
- 重複購入率とブランド浸透率の単純モデル(bx|y= Dbx(競合浸透率)) との比較で、誤差16%、相関0.97という高い適合度が得られ、日本市場でもDoPが再現された。(図5)
- 一方、高価格帯や独自機能を持つブランド群(「プレミアムヘアケア」)同士が互いに顧客を共有する「サブカテゴリー」の存在も確認された。(図6)
【図5】

【図6】

考察
<結果の解釈と意味づけ>
- 負の二項分布(NBD)について
日本のシャンプー市場でもノンユーザー、ライトユーザー層が多く、短期から長期にわたり「非購買/年1回購入」の割合が非常に大きい。しかし大きなブランドほど長期でリピート率が高まる点は、成長段階の異なるブランド間で戦略が異なるべきことを示唆する。 - ダブルジョパディ(DJ)について
浸透率が増えるほどロイヤルティが高まるとされるダブルジョパディが、日本のPOSデータでも再確認された。特に2.5%超えで顕著になること、さらには5~12%あたりで高い壁が想定されることは、小中規模ブランドが成長を目指す上で「どこでマスメディア投下などを図るべきか」の基準になる可能性がある。 - 購買重複の法則(DoP)について
競合の浸透率が高いほど自社顧客がその競合と重複しやすいという基本原則が強く再現された。サブカテゴリーとして高価格帯ブランド群が独立的に振る舞う例外も見られたが、これは機能差や価格差、流通形態の違いが大きい場合に新たなクラスターを形成する傾向を示す。
<仮説との整合性の検討>
- 仮説1~3すべてについて、概ね従来の研究どおり日本市場でも通用することが確認された。
- 一部例外や境界条件が特定され、これは従来研究が示す「サブカテゴリー」「例外パターン」の存在と整合的。
<研究の限界点>
- シャンプー以外のカテゴリーでの一般化については今後の検証が必要。
<先行研究との比較>
- アレンバーグ=バス研究所を中心とした海外研究とも整合的であり、日本の実購買データでも同様の傾向が強く認められることを確認した。
結論
<研究で明らかになった主要な発見>
- 負の二項分布(NBD)
日本のシャンプー市場は短期から長期スパンまでNBDに従い、ライトユーザーが大多数である。 - ダブルジョパディ(DJ)
日本のシャンプー市場は浸透率が高いほどロイヤルティもやや高くなり、成長にはまず「購入者を増やす」ことが重要である。 - 購買重複の法則(DoP)
日本のシャンプー市場は大半のブランドが競合ブランドの浸透率に比例して顧客を共有しており、ターゲティングやポジショニングだけでは競争を避けられない。
<研究の意義と貢献>
- 日本の大規模POSデータを用いた実証研究として、マーケティングにおける経験的一般化が再度確認された。
- 小規模ブランドと大規模ブランドで求められる成長施策の異なりなど、現場に役立つ示唆を得た。
<今後の研究課題>
- 他のパーソナルケア商品や食品、耐久財など、カテゴリー間比較を行うことで、同様の法則がどこまで一般化できるかを検証する。